小児科ブログ

子どもたちの新型コロナワクチン接種について

2022/03/07

最近私に匿名の茶封筒がよく届きます。手書きの宛名をみると少しときめきますが、ファンレターが入っていたためしはなく、全て「子どもへのワクチン接種に反対です」といった主旨のお手紙でした。5~11歳の子どもたちへのワクチン接種が始まることを受けて、多くの方が不安を抱いていることの表れだと感じます。

確かにこの年齢層の子どもたちの重症化は稀ですが、オミクロン株に変わり、感染した子どもの頭痛、咽頭痛や発熱などの症状はデルタ以前よりもはっきりしてきました。痙攣して救急外来に来られる年長児もしばしばいて、厚生労働省の分類に従って「軽症」とは言いがたいところもあります。入院患者や救命が必要だった子どもは全国でも多数いて、肺炎や小児多系統炎症性症候群などが重症化の理由としてあがっています。ワクチンの有効性は発症防止効果で50%、重症化防止効果で50-70%と下がりましたが(MMWR. 2022 Mar 4;71(9):352-358.)、製剤の主要成分量が3分の1になったこともあり、副反応は発熱や怠さ、重篤な心筋炎なども成人用のワクチンより少ないのも確かです。また、数字には表れませんが、ワクチン後に感染した大人の風邪の症状も咽頭痛、発熱といった症状が和らぐことも英国のZOE COVID研究からは期待されます。今後出てくる変異株に対する一助にもなるかもしれません。保護者や子どもたちが正しい情報を把握し、納得した上で接種することが必要ですが、私自身は接種することに十分意義があると思います。

mRNAワクチンという未知の要素に対する不安は当然ですが、ワクチン接種が開始されてから1年がたち、大勢の目が向けられているなかで遠隔期に発生する想定外の問題は明らかではありません。一方で、接種後に痛みなどの体調不良にしばらく悩む方がいるのも事実です。これの多くは「予防接種ストレス関連反応」に分類されるものです。ワクチンの種類に関わらず認められ、ワクチンに対する不安によって引き起こされる心身の反応と考えられていますので、不安を取り除く努力をしなければなりません。このような未知あるいは稀な副反応は完全に否定することはできませんが、感染した場合に起こり得るより多くの合併症と天秤にかけて、どちらが受け入れやすいかを各個人が選ぶ他ありません。

さて、新型コロナウイルス感染症を発症した子どものなかでも乳児は重症化するリスクが高まります。これまでに使用されたことのない新たなワクチンですので、接種年齢を段階的に下げていくことは一見自然ですが、薬でもワクチンでも子どもが後回しになっているという見方もできます。全ての子どもに接種するか否かは別として、小児用の製剤開発(あらゆる薬)が大幅に遅れる現状は問題です。現在、治験が進んでいる生後6か月~4歳の子どもへの新型コロナワクチンは、成人の10分の1量に成分量を減らしたものですが、2~4歳児において2回接種後の抗体産生量が不十分で3回接種後の検討待ちの状態となっています。6か月未満の子どもについてはワクチンの対象外となりますが、妊娠中の母体へのワクチン接種という手立てがあります。妊娠中の接種は女性自身を守る上でも重要ですが、抗体が新生児に移行することで6か月未満の乳児の感染を61%減らす効果も報告されています。

新型コロナウイルス感染症の状況は時々刻々とかわりますが、ベストな選択ができるように情報を発信したいと思います。(この話は3月7日の意見であることにご注意ください。)
 
小児科学講座教授 宮入 烈

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